目黒駅前商店街にある玩具屋の二階、八畳もないそのスペースに我々が引っ越してきたのは三月半ばの事で、いつものようにウエPが買ってきた陳麻家の弁当を男三人でかきこんでいる。 何だか新丸子に居た頃に戻ったみたいだよね、大学生みたいでこういうのいい…

南泉斬猫という有名な公案があって、ある禅寺で畜生に仏性が存在するかの議論になった際、近くに居た子猫を捕らえて南泉僧達に曰く、道得ば即ち救わん、道得ずんば即ち斬却せん、理を示せ、さもなくば子猫を切ると迫り、衆これに対する事能わず、南泉はつい…

例えば、火を起こす事自体が、魔法だった時代もきっとある筈よ、と味噌汁の鍋をコンロにかけながら、彼女は言った。 こうやって蛇口をひねると、それだけで綺麗な水が出る、不思議だと思わない? リモコンでテレビをつけると、成田のfedex便着陸失敗の事故の…

物静かな彼は、貧乏長屋に住んでいて、風呂も便所も無い六畳に満たない殺風景な部屋には、裸のままの書籍が素っ気なく床に積まれている。 カーテンの代わりにブルーシートが窓を覆っている、閑静と呼ぶには心苦しい、物音を立てる事が禁忌であるかのような重…

浪人時代、とある事情から、ある隠居した教育者の老婆の家に居候し、教えを請うていた。 僕と老婆は大変に仲が悪く、台所をヤニ塗れにする僕を彼女はいつも「下郎」と呼び捨てた。 「下郎」とは何か、それは卑しい者という事ではない、学ぼうとしない者の事…

聖路加に入院した知人を見舞った帰りに、清澄白河まで足を延ばす。 庭園横の公園で湿ったベンチに座ると、一気に気力が抜け、だらしなく手摺を枕に横になった。 時刻は18:30、もうすっかりと夏の気配を纏いはじめた空気が、陽が落ちていく事を証明しようとす…

「のりお」と最初に出会ったのは、興味本位に友達と入ったオカマバーでの事で、彼は従業員の一人だった。それからしばらく経った後に、馴染みのバーで偶然ばったりと再会したのが、僕達が仲良くなったそもそもの契機だった。 その最初のオカマバーで、僕は隣…